南方資源利用技術研究会(事務局は琉球大学農学部内)という団体があります。2017年にこの研究会で特別講演としてお話しをさせていただき、2018年には総説の寄稿を依頼されました。その年はちょうど弊社創業20年目にあたっていましたので、この20年を振り返って、一つの産学官連携論をまとめました。貴重な機会をくださった南方資源利用技術研究会に厚く御礼申し上げます。2年前のものになりますが、研究会の許可をいただいて、これより数回にわたって総説を転載します。
南方資源利用技術研究会誌 Vol.33 No.1, 25~34, 2018
総説「沖縄県の食品産業における中小企業支援としての 産学官連携の要諦」より転載
はじめに(p25)
一つの製品は、いくつものアイデア、情報、素材、技術およびノウハウ等の結晶として誕生する。新製品開発とは、これらの要素を合目的に取捨選択し融合させるプロセスである。
新製品開発に挑む企業にとって、産学官連携とは、このプロセスにおいて外部の技術資源を導入する手段のひとつである。特に、大企業ほどの経営資源を持たない中小企業にとって、産学官連携というオープンイノベーションの一形態は、企業単独の開発能力を超えて画期的な製品を生み出す大きなチャンスとなる。然るに、産学官連携が中小企業の経営革新を支援する重要な手段であるとするならば、当然にその計画立案と進捗管理は企業の経営戦略を軸として行われなければならない。しかし実際は、大学等研究機関、公設試験場、専門技術企業あるいは行政機関など複数の組織で構成される連携体を、中小企業の担当者が経営戦略に合わせてマネージメントすることは容易ではない。このような難しさを越えて新製品開発を成功に導くためには、産学官連携に関わる全ての関係者が中小企業支援の観点に立ち、経営戦略と技術開発戦略をフィットさせるための体系的な考え方について知っておく必要がある。
本稿では、まず沖縄県の戦後経済及び産業構造を概観し、続けて食品産業振興の意義を確認する。その上で、食品産業を担う中小企業に対する支援方法としての産学官連携の望ましいオペレーションについて論じ、併せて産学官連携の課題である人材育成に関する若干の提言を添える。
