有限会社開発屋でぃきたん

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2024/4/9

小林製薬の紅麹サプリの件について(2)(2024.4.9現在)

 3月27日に、その時までの報道で知られている情報に基づいて考えられることを述べました。
 その続きとして、4月9日までの報道で知られている事実に基づいて考えられることを述べます。

 紅麹が、琉球の先人が伝え残してくれた、沖縄にとって有望な自立的産業の資源の一つであるということは、今でも確信しています。その立場からの発言であることは率直に申し添えておきます。

 現時点においては、健康被害の原因はまだ特定されていませんが、疑いがもたれているのは「想定外の成分」(小林製薬)として検出された「プベルル酸」。そして、このプベルル酸はある種の青カビが生産することが知られている、との事です。この際、留意しておくべきことは

・すべての青かびがプベルル酸を作るわけではなく、ある特殊な青かびがこれを作ることが知られている。
・プベルル酸が一部の研究で危険性が示唆されているものの、ヒトに対して実際に毒性を示すかどうかは、学術的にはまだ確かめられていない。

 以上のことから、「青かびが生産するプベルル酸の混入」というのは健康被害の考えられる原因候補の一つであり、断定できることではない、という前提で紅麹と青かびの関係について自分の体験を基に考えます。

<紅麹に青かびが混入するリスクについて>
 私は1994年から1999年までの5年間、第三セクターである(株)トロピカルテクノセンター(2014年解散)の研究開発員として「紅麹菌利用高付加価値製品研究開発事業」に配属されていました。その間、50~60菌株くらいの異なる紅麹菌を蒸し米に増殖させて、いわゆる紅麹を手作業で作っていました。ここでの研究成果は特許出願されたり、地元企業へ移転されたりしました。TTCを退職して今日までの25年の間も、私は紅麹菌を利用した複数の製品開発研究に関わってきました。
 紅麹菌と関わる前に、泡盛の黒麹菌や清酒の黄麹菌も扱っていたことがあったので、泡盛麹や清酒麹とは異なる、紅麹菌の培養(製麹)の難しさを実体験として知っています。その難しさとは、利用可能な米麹ができあがるまでの培養期間の長さです。
 泡盛麹や清酒麹の種菌となるAspergillus属の麹菌は菌糸の成長が速く、種菌接種から24時間(1日)で米粒の表面が菌糸に覆われ、40数時間(2日)程度で胞子が形成され酵素量の多い成熟した米麹となります。菌の増殖が速い分、雑菌汚染のリスクが低いです。さらに黒麹菌は抗菌物質であるクエン酸をつくるので雑菌汚染リスクはより低くなります。
 一方、紅麹菌(Monascus属。学術的には“こうじかび”には分類されない)は、種菌を接種してからの菌糸の広がりが遅く、「紅麹」として醸造用に利用できるものに仕上がるまでに10~14日程度かかります。黒麹菌のクエン酸のような抗菌物質を作るわけでもないので、厳密な雑菌汚染防止策を講じないと、培養中に他のカビが生えてしまうことが時々ありました。私の経験では、黒麹菌が生えてきたこともあるし、青かびが生えてきたこともあります。その時はすぐに培養を中止し、汚染された作りかけの麹を、それを包んでいた布と一緒に121℃の滅菌処理をして廃棄しました。接触した容器も滅菌もしくは廃棄。培養庫はアルコール殺菌をしました。
 紅麹菌を専門的に扱う人は、研究者であれ、産業技術者であれ、紅麹づくりのこの難しさを熟知しているので、当然その対策を講じています。
 なので、今回の健康被害の原因が青かびの増殖によるものだとしたら、なぜこんな初歩的な間違いが起きたのか?どれほどずさんだったのか?と首をかしげたくなるのが正直なところです。単にマニュアル通りの操作を行い、麹の状態を見ていなかったのか...

 ただし、小林製薬による「モナコリンK」を高含有する紅麹の作り方は、従来の紅麹づくりと異なる特殊な作り方であったことが報道されました。
 それは、通常の紅麹の4倍の培養時間をかけていた、という事です。このことは現在でも、「小林製薬中央研究所」が公表しているWEBサイトで詳しく見ることができます。そのサイトには、紅麹を45日間培養することでモナコリンKの含有量が高まるという実験結果が掲載されています。

https://research.kobayashi.co.jp/material/benikoji/benikoji_report02_2.html

 これほどの長時間麹を培養し続けるというのは米麹を用いる発酵食品ではありえないと思います。かなり特殊です。目的としない微生物が混入・増殖してしまうリスクは格段に高まると思います。
 小林製薬の紅麹事業は、肌着メーカーのグンゼから全面的に承継したものです。グンゼは1990年代、カイコの無菌飼育で培った微生物制御技術を応用した事業多角化として、機能性素材としての紅麹の開発に乗り出し、紅麹の販売事業を展開していました。沖縄の一部の豆腐ようメーカーが小林製薬から紅麹を仕入れていたというのは、グンゼ時代からの取引が引き継がれていたのではないかと思います。しかしグンゼは2016年にその市場から撤退し、事業が全面的に小林製薬に引き継がれたことが、紅麹業界では知られています。

https://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ01HVS_R00C16A2TI5000/

 グンゼの特許(特許第5283363号、発明の名称:「モナコリンK生産性に優れた紅麹菌株」)には、既存の紅麹菌株からモナコリンK高生産菌株を独自に選抜することによるモナコリンK高含有紅麹の製造方法が開示されていますが、その実施例の中にはグンゼ菌株を用いれば10日も培養すればよいとしつつも、目的とするモナコリンK含有量に達するまで培養期間を延ばせばよいとも記されており、特許文献では8週間(56日)までの紅麹の培養例とその時のモナコリンK含有量の推移が示されています。小林製薬はこれを基本技術として、サプリメント用のモナコリンK高含有紅麹を作っていたと推測されます。
 また、このことからも、小林製薬が一般食品用の紅麹とサプリメント用の紅麹を作り分けていたことがわかります。

 もちろん、最初の技術開発者であるグンゼには何の責任もありません。
 小林製薬が、微生物制御の技術・ノウハウ・危機意識をグンゼからどこまで継承・維持していたか?という疑問を感じています。
 紅麹に限らず、どんな食品でも愛情を持って丁寧に作る。これは地域産業の要です。
 大企業の大量生産主義においてはどうだったのでしょうか?(2024.4.9)
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有限会社開発屋でぃきたん
代表取締役 照屋隆司

農学修士(農芸化学専攻)
技術経営修士(MOT専門職)
NR・サプリメントアドバイザー
産業カウンセラー

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